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The Stage is set.
“始末対象”の顔を確認していなかったことを思い出したのは、カフェ「Freely Marionette」の看板が行く手に見える所にまで来てからだった。
急いでメールの添付ファイルを開く。こちらへ向けて呑気にピースしている若い女の写真だ。メールには久木 純子とあったっけ。こいつも、彼とキスしたり、ヤッたりしたのか。吐き気がする。でもあたしはユーヤの“最後の女”になれればそれでいい。
盛大な舌打ちをくれてやりながら、カフェの扉を肩で押し開いた。切れた糸を垂らしながら四肢を大きく広げ、躍動感のあるポーズを取っている何体もの人形がレジ上に並んで出迎えてくれる。ちょうど昼時だからか、店内はほとんど満席に近い。
とにかくカップルや女子会をしている連中は除外だ。1人きりで座っている女の中から、緩く巻いたブラウンのミディアムヘアと泣きぼくろが特徴の奴を探せばいい。もう13時を10分くらい過ぎているから、常識がある人間ならもういるはず。
「いらっしゃいませ、1名様ですか?」
「いーえ、待ち合わせてる女がいるんで。もう来てると思うんだけど」
寄ってきた女性店員を押し退け、首を目一杯伸ばして辺りを見回す。どいつもこいつもヘアスタイルとファッションが似たり寄ったりで困りものだ。ここのカフェはドレスコードが「ゆるふわ系」とでも決まっているのか。
ふん、と鼻を鳴らすと壁際の一席に座っていた女が一瞬こちらに視線を寄越した。左目の下に泣きぼくろがある! あいつか。ピンク色のやたらふわふわしたロングニットを着ている。羊でも貼り付けているみたいだ。10月に入ったばかりで、まだ真冬でもないのに暑苦しい。
とりあえず、真向かいの空席を埋めてやろう。ブーツのヒールをカツカツ言わせ、テーブルに近付いていく。これからどんな運命に見舞われるかなど微塵も知らない様子で、にやつきながらスマホをいじっているのがおかしくてならない。
ざまあみろだ。
「あんたが『ヒサギ』?」
テーブルに手を付き、抉り込むようにして顔を覗く。女はぽかんとしてあたしを見上げてくるばかりだ。毎度の展開ながらイラつく。
「だから、あんたの名前。『ヒサギ』じゃないの?」
「あ、はい……そうですけど、あなたは」
「友野 知己。ユーヤに頼まれて、彼の代わりに来ましたー」
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