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許可も取らずに席にかければ、久木は強い困惑と苛立ちとがない交ぜになった顔をした。まあ、当然といえば当然か。
水を置きに来た女性店員に「ご注文はお決まりですか?」と尋ねかけられたあたしは、すぐさま首を振った。
「ありがと、なんもいらないわ。すぐ出てくから」
「は、はい、失礼しました……」
萎縮しながら去っていく背を見送り、水を一気に煽る。酔えないのが惜しい。早く終わらせて祝杯を上げよう。できればユーヤと一緒に、今晩あたりにでも。
「あの、いきなり何なんですか」
「回りくどいの嫌いだから単刀直入に言うわ、ユーヤと別れて」
久木は真顔になったかと思いきや、「は?」と半笑いで首を傾げた。
「ごめんなさい、ちょっと意味が……私、浮気されてたってことですか?」
「んー、浮気とは違うかなあ。ユーヤ、すんごい優しいからさー、ちっちゃい頃から女にカン違いさせてばっかいんの。んで、こうして付きまとわれちゃうから、あたしがその度に縁を切ってあげてるわけ。唯一無二の幼なじみとしてね」
「……はい? 彼の家族でもないくせにうるさく口出ししないでもらえる? 私たちは、」
「あー、いいいい! どこで出会ったとか、どのくらい付き合ってるとか全然キョーミない! だってあたしよりかユーヤとの接点、絶ッ対短いに決まってるもん」
バッグから、いつも肌身離さず持ち歩いている小さなフォトアルバムを取り出す。どれも厳選したベストショットばかりだから何を見せようか悩みどころだ。
そうだ、それなら最初から全部見せてやろう。ああ、ユーヤは本当に幼い頃から可愛いくてカッコよくて、とにかく最高だったのだということを知らしめなければ。
「まず幼稚園の頃のやつね……今も中性的な雰囲気の黒髪イケメンだけど、ちっちゃい頃から『超』がつく美男子だったんだから! ほら見てよ、遠足に行った先でもおてて繋いで仲良くしてたの!」
ぎゅっと恋人繋ぎにした手を大きく振りながら笑い合っているあたしとユーヤの写真を眼前に突き付けてやる。当時、クラスで浮いていたあたしに唯一優しく接してくれたのが彼だった。
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