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「幼なじみだかなんだか知らないけど、頭おかしいんじゃないの? いきなりそんな話、信じられるわけないでしょ! 今日のデートだって、優也くんから誘ってきたのよ!?」
「だからー、それは別れるために呼び寄せたってことでしょ。ユーヤの代わりにあたしがここに来てることが何よりもの証拠だと思わない? 待ち合わせの時間と場所、ユーヤから情報送られてきてるんだから」
「嘘! 私たち、婚約してたのよ!? それなのにこんな、赤の他人を使って別れさせようだなんて……あっ! あんたが優也くんをそそのかして、ここに来ないように仕向けたんでしょ!?」
「最初に言ったじゃん、『ユーヤに頼まれて、彼の代わりに来ましたー』って。つーか声でっか。うるさい。周りの方の迷惑ですよー」
あたしにそう言われて初めて、久木は自分が立ち上がっていたことに気付いたらしい。周囲を見回した後で、慌てて席に腰を落とした。耳まで真っ赤にしながら、中指の爪を噛んで睨み付けてくる。とても納得していなさそうだ。この女、思った以上にしつこい。
正直面倒臭いけれど、このまま放って帰ったら久木はユーヤの居どころを死ぬ気で突き止めて、彼を追及するかもしれない。そんなことになったら一番困るのはあたしだ。
フォトアルバムをしまった手でメニューを取り、レジから怯えたようにこっちを見ている女性店員を呼び寄せる。
「ごめん、やっぱ注文いい? ロイヤルミルクティー1つ」
「か、かしこまりました」
「呑気に注文なんかしてんじゃないわよ!」
「はい、どうどう。お姉さん、気にしないで行って」
女性店員の背を押し出すと、久木は「ナメるのも大概にしなさいよ」と魔神のような声を出した。近くのテーブルに座っていたカップルが顔を見合わせ、そそくさと席を立っていく。
そんなに怖いか? これよりヤバい相手を散々見てきたから鳥肌なんて立ちようがない。カッターの出番もなさそうだ。
「私たちは、お互いの両親に挨拶する日にちを決めようとしてるような間柄なの!」
「あー、だから逃げられたんだね。ユーヤ、両親いないし、親のこと聞かれんのがマジで嫌いだから」
「え……」
「父親の方は生きてるよ、多分ね。借金だけ残して夜逃げして、それきり行方知れずってだけだから。母親は働きすぎてあたしらが中学のときに死んじゃったけど」
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