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人魚姫(クラウル×ゼロス+α)6
クラウルと結ばれてから、数年がたった。
ゼロスは心地よい城の中庭に腰を下ろし、蝶を追いかける男の子を微笑ましく見ている。あの夜に出来た子で、今年で五歳になる。
あの後、何気に国は大変な事になった。それというのも、男のゼロスが身籠もったからだ。
教会は「海神の使者」としてゼロスを祭り上げるようになり、肩の凝る状態に辟易はした。まぁ、魔性の者と言われないだけ良しとしたのだが。
ついでに豊漁や海難事故が減った事で国はますます栄えていき、それも海の加護と言われた。実際、ランバートなどから話を聞くと父が少し優遇しているらしいが。
クラウルの兄にも息子が生まれ、国はますます安泰だ。
現在ゼロスのお腹の中には二人目がいる。あまりその気はなかったのだが、クラウルがもの凄く不満顔をして迫ったのだ。
まぁ、長男も成長して手を離れ始めたから、応じたのだが。それでも、別にセックスレスではなかったのに。
「あ、クラウル父上!」
長男の嬉しそうな声に振り向くと、クラウルがゆっくりと近づいてくる所だった。
ゼロスの脇を、クラウルに似た肩までの黒髪を揺らして少年が走っていき、大きな体に満面の笑みでぶつかっていく。
「いい子にしていたか?」
「うん!」
まだまだ小さな我が子を軽々と抱き上げ腕に乗せたクラウルが微笑んで、ゼロスの側に来る。少し動きづらくなったお腹を抱えて立ち上がったゼロスの額にキスをした人は、とても嬉しそうな顔だ。
「平気か?」
「そんなに心配しなくて大丈夫だって。ちゃんと医者の言う事も聞いている」
過剰に心配をされると少し照れる。顔を逸らしてしまうと、その肩に手が回った。
「それならいいんだ。大事な俺の奥方だからな、少し過保護になってしまう」
「いつもだろ? まったく、恥ずかしいんだ」
「いいだろ? 甘やかしたい」
「あんたは俺を砂糖漬けにでもしたいのか。これ以上甘くされたら、恥ずかしくて逃げたくなる」
「それは大変だな」
面白そうに笑った人の隣りについて歩き出す。腕から下りた長男も嬉しそうに隣を歩く。
陸に上がった人魚の王子は、この上もない幸せな時間を自分の足で生きている。
END
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