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久しぶりに穏やかに笑い、かつて貰った桜貝の首飾りを撫でる。姿が変わってから一度も身につける事が出来なかったものだった。
人の気配が近づいてくる。もうすぐ、全てが終わる。その時を静かに待っていた。
その時、外で何やら慌ただしい……ただ事ではない声が聞こえた。そして次には勢いよくドアが開いて、会うことのないはずの人がこちらへと素早く泳いできた。
「我が君!」
「早く!」
強い力で腕を引かれたナルサッハはその力に負けて裏口から外へと連れ出される。
その後ろを城の兵が「追え!」という鋭い声で迫ってくる。
「しつこいですね」
憎らしく呟いた王子アルブレヒトが澄んだ声で歌うと、海の中がもの凄い勢いで渦を巻いて潮目も逆らい荒れ狂う。それは見えない壁と同じで、兵達もそこへ飛び込む事は敵わない様子だった。
アルブレヒトは呆然とするナルサッハを引っ張ってドンドン果てへと向かっていく。そこは王家の庭で、美しい珊瑚と透明な水が綺麗な場所。招きなしに訪れる事が出来ない場所だった。
そこにある岩場に切れ目があり、洞窟になっている。そこへとスルリと入り込んだアルブレヒトは歌を歌い、誰も入れないように空間を閉じてしまった。
「ここまで来れば、誰も入れませんよ」
「どうして……」
どうして、きたのですか。
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