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少し責めるような気持ちのまま問いかけると、アルブレヒトは苦笑する。そしてスルリと体を寄せて、強く抱きしめた。
胸が苦しくなる。触れてはいけない綺麗な人。元気になったのは知っていたけれど、二度とその前に現れないと誓った人だ。この苦しさに触れる事ができなかったから。
「お前を殺させるわけにはいかない」
「私がそれを望んだとしても?」
「死なせません。お前を失う事はできません」
強くはないがはっきりとした言葉で伝えられて、切なさと苦しさが増していく。同じ時を百年ほど過ごした人。初恋であり、唯一の人。何度、この姿でなければ側にいたいと願ったかしれない。夢の中だけでいい、側にいたいと願った人だ。
けれど側にはいられない。アルブレヒトは海王の長子。ナルサッハは呪い持ちのただの孤児だ。
「固執などしなくとも、誰もが貴方には優しく従順でしょう。こんな醜い呪い持ちなど放っておいても構わないではありませんか」
「ナル」
「お気に入りの兵隊もいるでしょう。こんな事、迷惑です」
突き放すように言ったのも、実際に腕を突っ張って拒絶したのも、そうしないと自分が辛いから。優しい人で、捨てられない人で、だからこそこちらから突き放しておかないと絆されてしまう。切り捨てるなら、徹底的にしなければならない。
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