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けれどアルブレヒトは離さないと強く抱きしめてくる。物理的に少し苦しいくらいの力に、弱く甘い部分が切なく疼いて欲しがっている。
「お前を手放す気はありません」
「お手を、離してください。助けて下さった事は感謝いたします。以後は国を出て二度とご迷惑はおかけしませんので、どうか……」
「お前をどこにもやりません」
キッパリと言い切られる。そして手が頬に触れ、愛しそうに瞳が細められて、次には唇が触れた。
柔らかくて、温かなその感触は想像よりもずっと甘くてクラクラする。体から力が抜けそうなほど、いつまでもそれを味わっていたいと思ってしまう。
けれどハッと気付いて、ナルサッハはアルブレヒトの体を突き放して逃げた。これ以上は怖い。心はまだ、この人を求めてしまっているのだから。
「お戯れも大概になさってください!」
逃げなければ。どこか、どこでもいいからこの人の手の届かない場所へ!
「あっ!」
腕を取られて、背中から強く抱きしめられる。尾を絡められて……アルブレヒトは震えていた。
「行かせない」
「我が君……」
「お前をどこにも、誰にも渡さない。私のナル……いつかお前を取りもどすと誓ってきたのです」
声が震えている。泣いているのかもしれない。
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