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卑怯だ、こんなの振り払えない。ジワリと熱くなる胸の奥が、ここにいたいと訴えている。この温もりを求めてしまっている。
「こんな醜い化け物など、放っておいてください。貴方の隣りになど、並べない」
「私の奇病を治すために、禁呪に手を出し禁忌の薬を作った。その呪いを受けたのでしょ? 私の責任です。お前は、醜くなどない」
「貴方にとってはそうでも、他の者にとっては違います! 人魚が闇落ちして、こんな姿になったのです。私のどこにかつての姿があります。尾はタコのようになり、美しい声は失われた。もう私は貴方の知るナルサッハではないのです!」
かつては美しい白髪に、綺麗な尾を持っていた。淡いグリーンの尾は誰もが溜息をつき、歌声は人々を魅了した。
けれど呪いを受けた身は、その全てを奪い去った。かつての姿を知っている者は指を差して奇異の目を向け、石を投げたのだ。
俯けた顔を上げられない。悔しさと惨めさで目眩がする。泣きそうな気持ちを押し殺して、グッと耐えるしかない。
それでも一つ誇りは残った。大切な主の命を、救えたのだ。
「ナル」
「っ!」
切ない声が名を呼んで、背に唇が触れる。柔らかな感触が背骨に響いて、体は熱くなった。
「お前のその呪いを解くため、私も奔走しました。いつかお前を取りもどしたくて、随分苦労したのです」
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