マッチ売りの少女(ナルサッハ)

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マッチ売りの少女(ナルサッハ)

 酷く寒い夜でした。雪も降り続き、すっかり暗い夜。今年最後の夜でした。  この寒さと暗闇の中、一人の青年が一夜の相手を求めて街角に立ち尽くしておりました。  薄い服に、薄い外套。薄汚れた白髪は光を失い、美しい顔からは血の気が失せて、今にも倒れてしまいそうでした。  彼に家族はありません。両親と姉、妹は既に亡くなり、彼は場末の娼館で客を取って生活を立てていましたが、それも客が取れなければ帰る場所もありません。客が食べさせてくれなければ、食べ物もろくに食べられないのです。  やがて、あまりの寒さに歩く事もままならなくなった青年ナルサッハは、店と店の間にある狭い隙間に身を寄せて、自らを抱き寄せて震えました。  粗末な靴は雪でぐっしょりと濡れ、歩くたびに音を立て末端は冷たく痛くてたまりません。  耳は冷たく感覚がなく、触れればジンジンと痛みました。  何か暖を取りたい。どんなものでもいいから。  縋るような思いで服のポケットをあさると、一箱のマッチが出てきました。先程教会の前にいた神父が配っていたものです。  意地を張らずに、あの教会に逃げ込めばよかった。  思いはしても、その勇気はありません。     
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