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ナルサッハにはかつて、信じた主がいました。けれどその人を裏切り、神に背を向けて生きてきたのです。今更、神に縋るのはあまりに都合がよすぎて出来なかったのです。
どんなに小さくても炎は炎。燃える火を見れば気持ちくらいは温まるかもしれない。
願いを込めて凍えた指でマッチ一本を取りだしたナルサッハは、シュッとそれを擦りました。
途端、ポォと仄かな明かりが灯り、その中に美味しそうな湯気を上げる料理と温かな暖炉を見たのです。
「え?」
まさか、そんなはずはない。きっと寒すぎて幻覚を見ているのだ。
思っても、そこから目が離せない。お腹が空いて、とても寒くてたまらない。
やがてその幻の中に飲まれるように、数々の料理が目の前にあるのです。
思わず手を伸ばした時、マッチの炎が消えました。それと同時に、料理も消えてしまったのです。
「今のは、いったい……」
戸惑いながらも、ふと手元のマッチを覗き込み、ゴクリと喉を鳴らしました。
幻でもいいから、温かな場所にいたい。救われないのだから、今だけは……。
崩れそうな心でマッチをもう一本握ったナルサッハは、それをシュッと擦った。
「あぁ……」
炎の中に見える景色に、ナルサッハは思わず声を漏らした。
その中には亡くなったはずの家族がとても幸せそうな笑顔でナルサッハを待っていました。
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