訪問

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 シミアンは窓の外を見た。建物を囲む芝生の敷地と、その向こうの大きな道路の後方に、黒の街が広がっている。  空は、すでに夜の色に染まり始めていて、その町並みも、シミアンが住むこの建物も、水底に沈んだように青い空気に包まれていた。  視線を引き寄せて、硝子越しに遥か下の暗い芝生を覗き込む。  この建物は、町から隔離されたように建っているため、周りに街灯は極端に少ない。そのため、夜になると芝生は闇に溶けて、シミアンは時々、引きずり込まれるような奇妙な眩暈を覚える。  瞬きを繰り返すことで視覚を取り戻すと、立ち上げておいたタブレット端末の画面に目を向けた。一昨日出したメッセージの返事が、やっと届いている。 「レトの奴…」  背中が痛い、それだけを伝える文面に、どこか情けないような顔をして椅子の背に寄り掛かった。  小さく溜息を吐くと、スコープと呼ばれる薄く青がかかった目元を覆い隠すゴーグルに手をやって、身体を乗り出してレトからの短いメッセージを読み直す。  何度も同じ文字を目で追いながら、左手で自分の背骨を撫で上げ、肩甲骨の辺りを指で押してまさぐってみた。痩せた背中に、肩甲骨が浮き出ている。     
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