雅龍さんと一緒

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学校が終わり、いつものように寄り道もせず真っ直ぐ家に帰ってきた。 「ただいま…」 自分の声が虚しく響く。数年前は「ただいま」などの挨拶をしない生活を送っていたので、ちょっと未だに違和感を感じる。 シーンと静まり返る中、靴からスリッパに履き替え、リビングへ行く。 新聞も椅子もリモコンも動いた様子がない。今朝と変わりなかった。 「今日も帰ってないのか…」 ここ15階建ての5LDKマンションの最上階である持ち主は兄である雅龍さん。職業は警察官。 職業柄忙しい人だけど、俺のことを気にして時間が空くと帰ってきてくれる。でも最近は多忙で帰ってこない日が増えてきた。電話やメールのやり取りは毎日しているので寂しくない。…寂しくないはずだったのに、昼間の譲のせいで気分は最悪だ。 「よし!」 気分を変えるために両頬をパチンとたたく。 大丈夫。俺は大丈夫。 そう暗示をかけるように呟きながら部屋へ行き、伊達眼鏡をケースに入れ、私服に着替えると、長い前髪をカチューシャで上げ、キッチンへと向かった。 今日は何を作ろうか、と冷蔵庫を開けると空だった。 そういえば一昨日カレー作って材料がなくなったんだった。 買い物に出るのが面倒だなと一瞬頭に過ぎるが、もしかして今日は雅龍さんが帰ってくるかも…と期待しながら、いそいそとスマホと財布をポケットに入れ外へ出た。
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