約束

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「何、これ」  私は驚愕というにはちっぽけな声をこぼした。私が浮気をしたひと月後のことだ。  目の前に広がる光景に、次に言うべき言葉が出てこない。  立ち尽くす私に彼のバツの悪そうな声が返ってくる。 「あ、いやっこれは……こんなに早く帰ってくると思わなくて」  違う。そうじゃない。私が訊いているのはそんなことじゃないのだ。  ねえ、今はそんな言い訳をする場面じゃないでしょ?わからないの?あなたがしていることの重大さに気づいていないの?  次から次へと湧き起こる疑問は彼に伝わることはない。私が口にしない限り彼には理解さえされないだろう。  この一年、私にキスもしなかった。そんな彼が私のいない隙を狙って知らない女と裸でいることの衝撃。これをどう言葉にしたらいいのか。文才のない私には想像することすら難しかった。 「ねえ、殺していい?殺していいよね」  だからやっとのことで出てきた言葉はこんな稚拙な単語だった。
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