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子供たちは彫刻に指の皮が当たった瞬間すぐ親の横に移動し、何もなかったような顔をしていた。男は子供たちの行動にも美術品に触れても何の警報もならないことに驚いた。
私は子供たちの行動の意味について考えながら、美術品を眺めていた。私の目の前にある絵画にはガラスが貼ってあり、じかに触れることはできなかった。だがあの彫像に触れることは可能なのだ。男はその事実に一人で震えていた。世間が金銭的にも芸術的にも価値を認めているものに、簡単に手を伸ばすことができる。何十年も経過した美術品に触れることができる。
男は度胸試しに触った子供たちとは別の意味を見出していた。もしあの彫刻に触れることができれば、私の何か特別なものが開花するのではないか。
ふいに出た疑問が確信に変わるのは一瞬だった。芸術家が命を賭し、自全身全霊で作り心血を注いだものに直接触れることができるのだ。何も起こらない方が不思議とすら思える。男は猛烈にあの彫刻に触りたくなった。
好意的に感じていたあの家族に対して、どうして早く出て行かないのだと思いかけるほど思いは切迫し始めた。家族がじりじりと出口に近づくのを凝視しそうなほどだった。別の絵を見ても何も感じることができず、すでに彫刻の前に来てしまってから数分後、家族はやっと出て行った。
ついに男は彫刻と二人きりになった。彫刻を眺めても何の意味も感じ取ることができない。だが、降れることに対する意味は感じるのだ。何かが手に入るという意思だけは感じるのだ。彫刻は呆けた表情で宙を眺める。その表情を覆うように掌を差し出す。しかし体はそこで停止した。何かが私を止めるのだ。理解できず怒りがこみあがってくる。あと数センチで何かが、特別ななにかが手に入るというのに、何が邪魔をするのだ。男は必死に考えた。なにものが私の邪魔をするのだと、私の未来を奪おうとするのは誰かと。急速に回転を始めた思考は多くの時間を消費し、ある答えに辿り着く。
だがその答えは男を失望させるものだった。殺しかねないものだった。男は信じられず、受け入れられず、美術館を後にした。もう男に彫刻は必要ではなくなっていた。
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