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そういえば、と心の中で呟きながら、体制を立て直す。教科書を半分ほど開いて、顔の前に立てる。そして右手で頬杖をつきながら、左手の人差し指で机を数回タップして、窓の方を再び見つめる。
あの窓の反射に映っていた女性は、この際もう「私」でいいのだが、私が冬の空に感銘を受けている時、どこを見ていたのだろう。もしあの人が窓の中で私と同じ方角を見ているとしたら、「私」は教室の天井のシミをじーっと眺めて「古い学校だなぁ」と思っていたのだろうか。
でもあそこの窓に映っていたのは紛れもなく私自身の投影だ。ならばあれは私の分身?一挙一動が連動した存在、同じ動作をプログラミングした、全く同タイプのロボットなのか?
だが私と「私」との間には決定的な違いがある。それは私たちの動作が左右非対称であることだ。私が右腕をあげれば左腕をあげるし、私が左に首を傾げれば右に首を傾げる。ならば私と正反対の動きをするようにマニュピレーとされている存在なのだろうか?
「ここで宮川は鏡の中に映る自分と実在の自分との対比で次のようなことを言っています」
はっと意識を現実世界に取り戻す。腕時計を見てみると、すでにこの次元の狭間での揺らぎに、私は二十分も費やしていたらしい。
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