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でもそういうものを全部取っ払ってしまった時、それが「私」という存在なのだが、どこまで澄んだ青空に一人映る「私」は、紛れもなく全ての「無意味さ」を背負い込んでいた。
「人間」という視点を捨て去り、光や音波の複雑な交差によって構築された「私」は「無」に等しい。そいつは教えてくれる、人間社会の一方的な満足を取り払ってしまえば、世界の全てが無意味で、世界の全てが平等である、と。
例えば鳥が空を飛ぶように
例えば石が湖の底でじっとしているように
例えばライオンがシマウマを食べるように
例えば太陽が東から昇って西へ沈むように
例えば魚がエラ呼吸をするように
誰かが生きることも
誰かが死ぬことも
誰かが失恋することも
誰かがセックスをすることも
誰かが人を殺めることも
みんなみんな、等しく無意味なのだ。
だから、それを教えてくれる「私」の方に歩み寄っていくのは、手を伸ばしていくことは、してはいけないことだった。
でも、もし、この世界が無意味なら...
でも、もし、この世界が平等なら...
それはとても...とても...とても...
何かに操られるように、もう一度窓ガラスに左手を伸ばす。時同じくして右手が伸びてくる。
もっと近くに、もっと遠くに、私と「私」は居る。
教室に座る私を「私」はじっと見つめる。時間や空間という人間が作り上げた概念という名の鎖に繋がれた私を一つ一つ解いていく。
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