前書き

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前書き

「...あっ」 驚いて顔を上げると、そこには、どこまで透き通った空が広がっていた。雲ひとつない、明るい青。風の寒さに身を縮め、茶色い地面ばかり見ていたせいか、光の眩しい大気の層は、少し刺激が強くて目がシバシバする。 目をこすってから見上げると、今度はしっかりと網膜が私の神経を通して脳内に情報を伝達する。 「...懐かしいなぁ」 続いてその作用によって自動的に口を突いて出た言葉は、鼓膜を伝わって再び私の頭の中を刺激する。今度は記憶を司る、海馬を。 その間、0.07秒。 そして私の口を突いて出た「懐かしい」というファイルに分類された数々の思い出が、パラパラ漫画のようなぎこちなさで順番に再生される。あるときは動画のようなワンシーンが、ある時は誰かのセリフが、ある時は写真が、ある時は知識が、ある時は文字が、ある時はシェイクスピアの劇のセリフが。でも私がコマンドF(windowsはctrl + f)で探している「冬の青空」の検索ワードに引っかかるデータは、未だ脳内メモリーの奥深くに潜んでいる。 0.03秒がさらに経過。     
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