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一年中雪の降る町で出会った少女は、桜の木を撮っていた。当然ではあるが、冬の桜は花も葉も完全に散っている。
散った裸の木を撮ることに何の意味があるのか。
少女が『何者』なのかを知るまで、男にはその理由がわからなかった。
◆
「今日も冷えるな……」
若い男は独り言ち、青いマフラーに鼻から下を埋めて身震いした。
男の右頬には真新しい痣があった。寒さが傷跡に染みるのか、男は眉間にしわを寄せ、雪の降る人気のない道を足早に歩いている。
道を進むと、木のそばで一人の少女が立っているのが見えた。
少女は近づいてくる男に気付かず、カメラを構えている。よほど集中しているらしい。
(まさか……何故この少女はここでカメラを?)
静かな雪道にシャッター音が響く。
「あの、ここで何をしているんですか?」
男が尋ねると、少女は振り向いて目を丸くした。陶器のように白い肌は、雪と同化して消えてしまいそうだった。
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