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「ここ……、転職先を紹介してくれるんですか」髪を触りながらどこを見ているのかよく分からない視線のまま、ぼそぼそと聞き取りにくい声で青年が言った。
マイペースな今時の若者、というのが水島のその青年に対する第一印象だった。
「ええ、そうですよ」相手の態度を気にすることもなく、小早川は愛想よく返事をした。
「へえ……」ドアの前に突っ立ったまま青年はぼんやりと辺りを見回した。
「まあ、どうぞ奥へ」
促されて足を進めた青年は何かに気付いたらしい。「コーヒー好きなんですか」
「ええ。あなたもですか」
「はい。今、カフェで働いてますし」
「そうでしたか。仕事終わりでここに来られたんですか?」
「そうです。よく分かりましたね」間髪入れずに返ってきた小早川の言葉に、やや驚きを含めた様子がうかがえた。
「服から匂いがしましたので」
この部屋も大概、コーヒーの匂いが染みついているのに、青年の服から発せられる香りに気付くなんてどんな嗅覚をしているんだ、と水島は思った。
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