僕と君と大地と空気

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 わたしが大きくなったらーーうね。約束だよ。  僕はここで目が覚める。  夢に出てきた女の子の顔はすでに思い出せなくなっていて、肝心な言葉もノイズが邪魔をして、目を開けた瞬間にはすでに記憶の中からはじき出されている。  これは夢だ。気にすることはない。そう思っていても、一週間も同じ夢を見続けるとそこに理由を求めてしまうのは仕方のないことだと思う。  多分僕はあの女の子のことを知っていて、何か大事な約束をしたんだ。それなのに僕は忘れてしまった。おかっぱよりはちょっと長めの、真っ直ぐな黒髪。しっとりと濡れていて艶があった……ような気がする。  寝ぼけ眼で顔を洗い、適当にシリアルを食べて(最近栄養を考えてバナナを入れることを覚えた)歯を磨きワックスで髪を整えると、営業周りでくたついたスーツを纏い部屋を出る。一年前まで聞こえていた「行ってらっしゃい」の声は、今はもう記憶の中でも霞のようだ。それなのに僕は一人、いつもの癖で玄関の扉に向かって「行ってきます」と呟いた。  外に出ると澄んだ風が?を撫でていった。今日もまた変わらない日常が始まる。
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