僕と君と大地と空気

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 満員電車に揺られた帰り道、雨が降るなんて聞いていなかった僕は駅の入り口で棒立ちになっていた。コンビニで傘を買うかタクシーに乗るか。そんなどうでもいい二択を考えることすら面倒臭くて、いつまで経っても止みそうにない雨の中に、僕はゼンマイ式のオモチャのように一歩を踏み出すことを決めた。  ……冷たい。  そりゃそうだ。季節はもう十月も末で、夏のしつこい熱気はとっくにこの狭い日本から押し出されている。それでも二歩、三歩と歩みを進めると、ふと、脳裏に見覚えのある景色が浮かんだ。  赤や青に塗られた公園のアスレチック遊具。その中で雨宿りをしている少年と少女。知っている。僕はこの公園を知っている。でも少女は……?  僕は踵を返すとスーツの雫を払って再び電車に乗り込んだ。無意識だった。目的地はここから百キロ程離れた実家。久しぶりの帰省である。  というのも実家には離婚の報告をしに帰ってから顔を出していないからだ。非難されることは目に見えていた。しかし今の目的は親に顔を見せて小言を受けることではなく、その向かいの公園にあった。さらにいえばその一角にあるお社だったから、言い訳を考える煩わしさはなかった。
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