僕と君と大地と空気

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 実家の最寄り駅にも小降りではあったが雨が降っていた。それでも構わず歩き慣れた道を進んだ。小走りになっていたのは雨のせいではない。地面を蹴り上げる度にパシャパシャと跳ね上がる飛び石のように配置された水溜りが、一足しかない革靴を湿らしていく。 街灯も少なくなった頃、道の先にぼんやりと明るい広場が見えた。物心つく前から遊んでいた公園だ。  あの頃と同じ遊具はもうない。けれど変わらないものがひとつだけあった。それが公園の隅っこにある小さなお社だった。僕がこの町に越してきた頃に建て替えられたというお社。そこだけが急激に移り変わっていく時間の流れの中で置き去りにされてしまったのか、懐かしい空気を纏っていた。 「ただいま」  僕は言った。誰もいない玄関で呟くのと変わらないいつもの言葉。帰ってきた。そんな気がしたのだ。 とはいえ公園で遊ばなくなって何年が経っただろう。隠れんぼをする時は必ずといっていいほど誰かしらこのお社の裏に隠れていたっけ。 「すっかり忘れてたな」 そう僕がポツリとこぼした時だった。「おかえりなさい」とはっきり少女の声がした。  僕は驚いて前を見た。小さなお社が黙って僕を見守っている。何かに促されるようにゆっくり隣に顔を巡らせた。すると小学生くらいの女の子がまっすぐ僕を見つめていた。 「おかえりなさい」  彼女はもう一度そう言って笑った。
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