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北村葉月
学校へ向かう途中、冷たく張り詰めた空気を切り裂くように、目の前を電車が通り過ぎていく。
踏切の警告ランプの音が、寒い空気に共鳴でもするように、高らかに響く。このリズムに耳を傾けながら、白い息を吐く。
左から来た電車が、バカでかい音と強風を引き連れながら、私の前を通り過ぎていく。
突然、後ろから暖かいぬくもりが私を包む。毛布のような柔らかさで、私を抱きしめながら、健ちゃんが私の耳元でいう。
「おはよう。」
「おはよう。」
私は電車を見送りながら、私の前で交差している健ちゃんの手に自分の手を重ねて、挨拶を返す。
私の手に感じる、健ちゃんの体温。重ねた手を通して健ちゃんの体温が、私の中に溶け出していく。
健ちゃんの熱が私の中に溶け出していく度に、私は健ちゃんに惹かれていく。
そして、私は思ってしまう。
まだ足りない。
全然足りない。
一体、どれだけの熱が溶け出したら、私の中は健ちゃんで満たれるんだろう。そうなれたら、私はもっと自由になれる。
電車が通り過ぎ、踏切が開くと同時に、健ちゃんは私から離れ、駆け出して行く。
踏切の真ん中まで進んだ健ちゃんは立ち止まって、振り返る。
「先に、行くからね。」
そう言うと、再び前に向き直って走り出し、あっという間に踏切を渡り切り、その先のカーブした道へと消えていく。
健ちゃん(白川健一)と私(北村葉月)が通う吉高高校は、この踏切を渡り湾曲した一本道を100メートル程進んだ先にある。
吉高高校に通い始めて、7ヵ月が過ぎていた。この春に入学し、夏を越え、秋を感じ、今ではすっかり冬の装いに変わっていた。
踏切のある風景も、すっかり目に馴染んでいる。
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