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黒縁眼鏡の奥の瞳は見開かれ、手を口に当てたまま首を振る女性を見て、川崎は真っ青になった。観客席からも、浜地先生だと声が上がる。
「美弥子、お前何でこんな所にいるんだ?この芝居はなんだ?俺を売ったな?」
川崎が舞台の奥にいるボブヘアーの女性に近づこうとした時、客席から上品なスーツ姿の女性が立ちあがって叫んだ。
「あなたのせいで私の家庭は壊れてしまったわ!あんなに優しくしてくれたのに、利用価値がなくなると簡単に捨てるのね!?」
振り向いた川崎は、暗い客席にうっすらと浮かび上がった女性を見て、立ちすくんだ。
「摩季お前まで!大体、お前の夫が浮気調査をするから悪いんじゃないか!自業自得だろ?二人とも同罪だ。俺だけのせいにするなよ!」
思いもよらない二人が現れて驚いた川崎が、責め立てられると勘違いをして慌て出し、観客の存在を忘れて言い訳を始めた。
スーツ姿の女が、舞台下の中央に置かれた階段に足をかけ、舞台へと昇り出す。それを見て、川上は女を避けるように上座へとあとずさりをしたが、その後ろにはリアムが道を塞ぐように立っていた。
ショートボブの女性が、スーツ姿の女性に駆け寄って行き、お互いに手をとると、ショートボブの女がスーツの女に問いかけた。
「あなたの名前は摩季さんと言うのね?」
「そうみたい。そしてあなたの名前は美弥子さんと言うのね?」
「川崎さんがそう言うんだから、間違いないわ」
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