第三章 糾弾

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 杉本輝明率いる劇団の20周年記念公演の日がやってきた。  連日続いた茹だる様な8月の蒸し暑さは、嘘のように消え、この公演を祝福しているように過ごしやすい気候になった。  このところついていないことが重なった川崎は、テレビで日中の気温を確認し、これなら客の入りが見込めるだろうと期待して、少し派手目のジャケットを片手に家を出た。  以前なら姿を目に入れるだけでも、鬱陶しいと思った妻の季実子は、3カ月ほど前に突然出て行ってしまった。  最初は自分の行動をまるで見張るように付きまとう季実子がいなくなり、そのエキセントリックな感情の起伏に振り回されることもなくなってほっとしたが、一切の家事を任せて夜遅くにしか帰らなかった川崎の家の中は、ここ数カ月で足の踏み場がないほどの荒れた状態になった。  離れていったのは季実子だけではなかった。  生徒が一人二人とやめていき、偽装工作をした二宮摩季もいつの間にか来なくなり、生徒の一人から離婚をしたと聞いた。  その時は、何の感慨も湧かなかったのに、生徒不足の今となっては、摩季が音大の仲間と行うライブの伴奏料を、もらえなくなったことが惜しいと思うようになった。     
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