第三章 糾弾

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 残った生徒のほとんどは、才能がない代わりに、時間だけはたっぷりあるという余生を楽しんでいる年配の輩で、川崎のピアノはカラオケ代わりの伴奏として使われるだけになった。  機材のローン、スタジオ代、生活費を差し引くと、今のままでは赤字になってしまうと焦り、山峰に相談しようとした矢先に、その山峰までが、以前宣言した通りの独立を果たしてしまった。  二人で分担していた経費が、全て自分一人の肩にのしかって、ジャズピアノも満足に披露することもできなくなり、川崎が不満を抱えて爆発しそうになった時、山峰から吉報が入った。  なんでも、有名な演出家率いる劇団の20周年記念に、アメリカと日本で活躍するジャズプレーヤーが友情出演するらしい。  寸劇を交えてその腕前を披露するので、ジャムセッションのためのジャズピアニストを探しているというのだ。  上手くいけば、日本でのライブばかりか、アメリカへ戻る時もメンバーに加えてもらえるかもしれないと聞き、川崎はその話に飛びついた。  履歴書と録音した演奏のCD-Rを杉本の事務所に送ると、ほどなく面接日の連絡が来て、杉本輝明と面談をする機会に恵まれた。  杉本の知人であるというリアム・ジョンソンの名前は川崎も知っていた。  以前、仲間が見つけて教えてくれた落ち着きのあるライブハウスに、有名なミュージシャンが出ていると知り、一人で聞きに行ったことがある。     
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