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星歌の嫌味も川崎には通じないらしく、鷹揚に頷いた後、いきなりリアム・ジョンソンのことを切り出した。
「ところで、リアム・ジョンソンがどこにいるか知らないか?一人用の控室は有難いけれど、話し相手が欲しいし、ジャズミュージシャン同士で音楽談義でもして、時間を潰そうと思ってね」
川崎の言葉に星歌はぎょとした。
この舞台で演奏するチャンスをもらったくせに、感謝するどころか、敬意をみせようともしない。
劇も見ないで、時間を潰す相手を探したいですって?
杉本や劇団員たちにとって、それがどんなに失礼な言葉になるか、川崎には分からないのだろうか?
ちらりと杉本の顔を窺うと、引き締められた口元にわずかに皺が寄っている。
メンバーや、杉本に指示を仰ごうと追ってきた団員たちも、まるで表情を失った彫刻のように立ち尽くし、その広がる無言の悪感情に圧され、星歌は肌がピリピリするのを感じた。
「私は下っ端なので、彼の様な有名な方とお話できる機会はありませんし、居場所も聞いていません」
星歌が何とか言葉を発すると、かけられた呪文が解けたように周囲が動き出した。
「リアムは後から来るそうだ。舞台で会えるのを楽しみにしたまえ」
杉本はそう言い残し、団員たちの元へと戻って行った。
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