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川崎がリアムに感化されて、バリエーションに富んだ演奏をし出すと、リアムの左手が鍵盤から離れ、川崎の脚に滑っていった。
瞬間ビクリと震えた川崎が、それでも演奏を続けたままで、どういうつもりかとリアムを仰ぎ見ると、リアムは平然と言い放った。
「ほら、よそ見しないでもう一回」
川崎に覆いかぶさるようにして弾いていたリアムが、バランスを崩して、自分の脚に手をついたのかもしれないと考えて、気を取り直した川崎が、もう一度同じメロディーを弾き始めると、またしてもリアムの左手が太腿をまさぐった。
「なっ…」
「僕のバンドに入りたいんでしょ?客席からは見えないから、誰も気が付かないよ。そのまま弾いて」
耳元でリアムに囁かれ、川崎は嫌悪を抑えて、何とか指を動かす。
ところが、観客は気が付かないどころか、客席に聞こえるはずのないリアムの囁きが、舞台上部に設置された電子ボードに流れているので、唖然とした表情で見上げていた。
ピアノの音は聞こえても、目の前で繰り広げられる普通を装った妖しいやり取りは、観客たちにある出来事を思い出させた。
もう限界だと立ち上がろうとした寸前、今まで舞台に背を向けていたボブヘアーの女が振り向き、口に手を当ててわなわなと震えた。
「川崎さんはバイセクシャルだったの?そんな素敵な恋人がいるのに女の私にまで・・・」
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