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「でも、どうしましょう。私たちの正体がバレてしまったわ」
何を言っているんだと混乱した川崎は、二人の顔がメークで作られていることにようやく気がつき、慌てて舞台中央の階段を下りて逃げようとした。
すると、いつの間にか階段の下には、ボブのウィッグを被った偽美弥子が5人、スーツ姿の偽摩季が5人立っていて、階段を上がってくる。
「バレてしまったわ」
「どうすればいいの」
6名の美弥子と、6名の摩季が同時に叫ぶ。
「噂が広がれば、仕事を失ってしまうかもしれない。一体どうすればいいの」
「私はすでに何もかも失った。でも、騒ぎになった原因が私だと知られたら、表を歩けなくなってしまう。どうすればいいの?」
会場は異様な雰囲気に包まれ、誰も声を発せない。
その時、2階席と3階席にある非常口から、数えられないほどの偽美弥子と偽摩季がなだれ込んで来た。
「探すのよ生贄を!」
「そうよ、私たちの罪をかぶせましょう!」
一斉に叫んだ偽美弥子と偽摩季たちが、通路に溢れ、鬼気迫った顔で観客の顔を一人一人覗き込む。
観客はその勢いに飲まれ、身を竦ませた。
「居たわ!あそこよ!」
1階の出口付近にいた偽美弥子が、大声で叫んだ。
その途端、ぴたっと動きを一瞬止めた2階と3階の偽者たちは、1階の席を覗くフリをして頷くと、観客席付近から慌ただしく非常口へと走って消え去った。
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