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エレベーターが止まる時もガクンと揺れたが、あと5分と迫った時間に気を取られていた星歌は、そんなことに構う余裕もなく、扉が開ききるのを待たずに飛び出した。
フロアには全3部屋があり、左に折れた角部屋が目指す場所だ。
すかさずインターホンを鳴らし、応答を待つ。
ピンポ~ン
中からくぐもった音が聞こえたが、誰も答えない。
「あれ?おかしいな。確かに5月10日午前10時半って電話で聞いたのに…」
間違いじゃないよね?と不安になった。30秒ほど待ってからもう一度インターホンを押してみる。
やはり無言だ。もう帰ろうと踵を返した時、『はい』と男性の声がした。
「あの、佐野星歌と申します。今日10時半から弾き語りの体験レッスンを申し込んであったのですが…」
『ああ、佐野さんね。開いているから入って。レッスン中は聞こえないときもあるから、チャイムは鳴らさないで入ってきていいよ』
「はい、分かりました。お邪魔します」
重い鋼鉄の扉を引いて中に入ると、生徒のものなのか、間口に女性もののパンプスが揃えて置いてあった。
その横に靴を並べると、3mほどの廊下を進んで、半すりガラスの扉を開ける。
中はリビングらしく、応接セットが置いてあり、隣接したダイニングのもう一つ先の部屋から、弾き語りの教師の川崎が顔を出した。
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