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星歌をどこの部屋付きにしようか迷ったマスターは、スマートな対応が似合うモダンスタイルの部屋と、書斎、そして試しにということで、一番奥の庭園からは外れた「ランプの部屋」を任せることにした。
その部屋は、洞窟の様に演出されたごつごつと波打つむき出しのコンクリート壁に、ほの暗い室内をランプで照らした雰囲気のある部屋で、庭園や他の部屋から少し離れているため、ちょっと訳ありな客が好んで使うようになった。
今朝は朝一番からランプの部屋に、佐藤の名前で2名の予約が入っているので、星歌は公演までに歌を聞かせられるようにレッスンに励むことを由美に告げると、もう一度その部屋のチェックに向かった。
カフェの開店と同時に、二人の男性が入って来た。
一人は身体にぴったり合った上質なオーダーであろうスーツを着ていて、年齢は50代だろうか、片手に書類を入れたA4サイズの封筒のようなものを持っている。
連れは、ジャケットと細身のパンツというくだけた格好だが、それが妙に様になる年齢不詳の男性で、石畳の入口に出迎えた星歌は二人の関係がどんなものなのか訝った。
だが、顔には出さず丁寧なお辞儀をして、名前を確認した後、二人をランプの部屋に案内する。
着席した二人に革表紙のメニューブックを差し出すと、星歌が説明するまでもなく、佐藤がもう一人の男性にお勧めなどを話し始めたので、佐藤が常連であるのを知った。
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