第三章 糾弾

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 金曜の午前10時、山峰はY.K.Mスタジオに隣接するマンションの一室で、サーモグラフィーを搭載したカメラを覗いていた。  二宮摩季だと思われる女性が、一昨日観察した浜地美弥子と同じように、川崎に耳打ちしているような姿が浮かび上がる。  だが、音楽と共に流れているのは、また男女の濡れ場の喘ぎ声だ。そして川崎が動いて音が止まる。 『おかしいな。ちゃんとチェックしたのに、まただ。新しいパソコンを買わないとだめかな』  そんなバカなことがあるか!山峰は毒づいた。  昨日自分のレッスンが終わった後、同じパソコンを使って浜地美弥子と同じ曲をかけてみたが、何も起こらなかった。  履歴はきれいに消去され、川崎が怪しい動画を見た証拠も上げられず、山峰は苛立っていた。 『悪いね。もう一度最初から歌ってもらえるかな』  曲と共に、歌声が聞こえ始める。だが、今回は先ほどの作り物めいた声とは違い、ぎしぎしとパイプ椅子が軋む音や、女性のやんわり拒む声が生々しく、案の定サーモグラフィーに映る姿も、座った川崎が女性の腰を抱き込んでいるという声と比例する動きだった。     
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