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プロローグ ボイストレーニング
駅前の大通りに面したビルを見上げ、佐野星歌はボイススクールの看板を探していた。
ネットの普及で今や廃れつつある薄っぺらいフリー情報誌の地図は、手書きで書いたようなただの棒の羅列で道が示してあり、ものすごく分かりずらい。
体験レッスンの予定時間はあと10分後に迫っていて、星歌はビルの合間を縫って、必死で目印の洋菓子店を探す。
10mほど進んで引き返そうと思った時、ようやくもう10m先に目当ての洋菓子店を見つけた。
「なにこれ?細い道は一本も描いてない地図?ひどすぎ!」
急いでそこまで行き、店の角を右折する。
数軒の古びたマンションを過ぎると、左側にコインパーキングがあり、車一台通れるかどうかの細い道を挟んだ向いに、ベージュ色の吹き付け壁のマンションが建っていた。
その3階の窓にY・K・Mスタジオの看板を見つけ、星歌は思わず安堵の溜息をついた。
入口から入ってすぐ、クリーム色のエレベーターを見つけ乗り込んで、3階のボタンを押す。
年代もののエレベーターは扉の開閉もゆっくりで、上がる時の反動が大きく揺れたので、星歌は思わず足を踏ん張って、身体が傾くのを堪えた。
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