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エピローグ 切り落とされた幕
ざわついた場内に重々しいブザーが鳴り響くと、暗い場内はひっそりと静まり返った。
幕内に待機している星歌たちには、客の様子は見えないので、好意を持って迎えられるだろうかと緊張感が否が応でも高まる。
弾き間違えたらどうしよう。いざという時に声が震えたらどうする? きっと歌手の役を台無しにしてしまうだろう。
知らずに自分に追い打ちをかけて、星歌の不安がピークに達した時、スルスルと緞帳が上がり出した。
照明で照らされ、ホールの闇に浮かび上がる舞台と、その縁の向こうに、こぼれた光でかすかに浮かびあがった観客の顔が見える。
期待に満ちた表情で舞台を見上げ、拍手をしてくれている。
その顔を見た瞬間、自分の役がどんなに小さな役でも、ここに足を運んでくれた人たちに満足してもらえるよう頑張ることしか考えられなくなった。
日常から解放されて別人になれる演技の面白さを、星歌はサークルで知った。
それがどんなに有り得ない設定でも、繰り返される平凡な日々に刺激とスリルを与えてくれるから、演劇は星歌にとって大切なものになっていた。
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