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「すげえ、すげえ」
緋色は祭を見るや子どものように目をきらきらと輝かせて藤吾郎の着物を掴んだ。
「こんな日に身請けしてもらえるなんざ己は幸せ者だ」
「祭がそんなに珍しいのか?」
藤吾郎にとってはこの人混みも賑やかさも日常茶飯事だ。
夜店などはどこへ行ってもやっている。
「己はあの窮屈な見世から出たことなんざ無かったものでよお、外の世界は水揚げされて戻ってきた仲間の言伝てにしか知らなかったのさ」
緋色はどこか自嘲気味に言った。
藤吾郎はまずいことを言ってしまったと思い身を抓んだ。
しかし緋色は対して気にしてもいない様子で夜店のひとつに一際好奇心の強い目を向けた。
「旦那、あれは何だい?」
緋色が指さした先の夜店には飴細工職人の男が葦に口を付け飴を膨らましていた。
周りには子供たちが集まりそれを見ている。
「ん、ああ…ありゃ飴屋だ」
「あめ?」
「知らねえのか」
緋色は物珍しそうに近づいてその姿をまじまじと見つめた。
小さな童子たちの中に大人の男が混ざっているのはなんとも妙な光景だったが、緋色はそんなことも気にせず言った。
「へえ、綺麗だなあ」
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