金魚楼

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「旦那が俺を捨てない限り、己は旦那から離れないよ。独りにしない」 藤吾郎は顔を上げ涙に濡れた鈍色の瞳を向けた。 切れ長の瞳が自分を見据えている。 ――緋色。愛しい緋色。とっくに心は奪われている。 「…捨てる、もんかよ」 掠れてしまいそうな声で藤吾郎は緋色の冷たい体を抱き締めた。 「ならよ、忘れっちまいな」 耳元で緋色の声がする。 「今宵今晩この夜から、旦那の男は己ひとりさ」 甘い低い声。 藤吾郎の過去の記憶が、過去の男が砂のように崩れていく。 腰から力が抜ける。 緋色は畳に膝を立てて、着流しを脱ぎ捨てた。 赤いその衣は金魚の尾びれのようにゆらゆらと揺れる。 「ぜぇんぶ嫌なこた忘れてよ、天に昇っちまおう。なあ?」 ――欲しいだろう? 藤吾郎はもう何も考えられなくなった。 欲しい。緋色が欲しい。 藤吾郎は犬ころのように畳に手足をついて、目の前に下げられた肉棒にむしゃぶりついた。
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