金魚楼

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だが緋色のものは吐き出したくなく、えづきながらも飲み干した。 「ごほっ、ごほっ…!」 「大丈夫かい?ごめんよ、無理させて」 藤吾郎は咳き込みながら唾液や精液濡れになった口元を手の甲で拭った。 緋色は金魚なのに体液の味は人間の男のものと何も変わらない。不思議なものだ。 そう思い藤吾郎が身を起こせば、目の前に緋色の整った顔があり思わず固まった。 「旦那」 甘く囁く緋色の手が藤吾郎の帯に触れる。 「己ばかりじゃあいけねえや。旦那も良くしてやるよ」 藤吾郎は顔を茹蛸の如く真っ赤に染めあげて必死に首を振った。 緋色にそんな真似をさせたくはない。 それに、なによりも。 「お、俺ぁいいんだ。買われたからってそんな責任を感じるこたあねえ」 自分のような男を好き込んで抱く阿呆がいるわけがないと思った。 だって緋色はこんなにも美しいのに、年の食ったいかつい自分を好きになるはずがない。 藤吾郎は自分が情けなかった。 寂しさにつられて、緋色を買ってしまった。 結局は自分を捨てた男と何も違わないのだ。美しく若い男に逃げている。俺も同じくずだと藤吾郎は我が身を呪った。 緋色を男娼のように扱いたくはない。緋色にだけはそんな男だと思われたくはない。 「はあ?」     
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