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藤吾郎が泣きそうになっていると、低い声がした。
畳に向かっていた目線を上げれば緋色が藤吾郎を睨み付けていた。
「何だいそりゃあ」
その瞳には怒りが灯っていた。
藤吾郎が震えた声を出す。
「俺ぁおめえにそんなこと強いたくねえ…だからおめえは居てくれるだけで…」
「たわけたことを言うんじゃねえ!!」
緋色が初めて声を荒げた。
藤吾郎が驚きのあまり目を丸くしていると、緋色は構わず藤吾郎のむなぐらを掴み上げて激昂した。
「己が情けであんたを抱いてるとでも思ってんのか!?だったらとんだ思い違いだ!己が同胞たちの中から一匹だけ、どうして網から逃げなかったと思う!」
緋色は一際大きく叫んだ。
「あんたに惹かれたからだ!」
その言葉に藤吾郎は瞳を揺らがせて、とうとう両目から涙を零した。
緋色は長い息を吐くと藤吾郎の肩に手を置いて口付けた。
「なあ、どうしてそんなにも健気なんだ。己はあんたのそんなとこがいじらしくって堪らねえや」
声も上げずに泣く藤吾郎の背に腕を回して帯を解く。
藤吾郎はもう何も抵抗をしない。
正直あまり上等とは言い難い布団にゆっくりと押し倒された。
見上げると寒気がするほどの美丈夫が自分を愛おしげに見つめている。
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