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結い上げられた黒髪を少し乱した若い女だ。着物の襟や裾は大きく開き、柔らかそうな白い胸や足が顕になっている。
藤吾郎は女のその艶かしい姿に眉を潜め厳しい顔をした。
夜店の店主には見えない。まるで夜鷹のようだ。
「ほら、もそっと近くにおいで。覗いてごらん」
「俺ぁ生きもん育てるのは苦手でね」
「そりゃあ残念だ。ここの金魚は願いを叶えてくれる摩訶不思議な金魚なんだがね」
藤吾郎はますます眉間の皺を濃くして女を見た。
金魚すくいの店にしても随分と怪しい。こんな暗い裏道に出す必要があるのか。真っ当な店ではなさそうだ。
掛けられた赤い提灯にだって金魚すくいではなく金魚楼、と書かれている。
上手いことを言って客を引き寄せ荒稼ぎをしようという魂胆なのだろう。
「願い、ね。占いか何かか」
「いいや?言葉の通りさ、叶えたくても叶えられない願いを叶えてくれる夢の魚達だよ」
「なるほど…」
これは完全に眉唾物の予感がする。藤吾郎は溜息をついた。
そもそも願いを叶えてくれる魚などいるものか。
一体この怪しい商売でいくらとる気かと女の足元に立てかけられた小さな木板に目を向けた。
すると、木板に書かれた金額の単位は銭ではなく年と書いてある。
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