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「俺をここに連れてきたのは暗黒将だろう? 姫様こそ、あの魔物は良いのか? なかなか見目の良い人型の魔物だっただろう」
「あの魔物の野心と、余の気持ち……。利害が一致した結果、そなたがここに招かれたのだ」
王女もまたさびしげに笑った。
勇者は王女の前にひざまずくと、その片手をとった。
「この勇者、囚われの姫様をお助けに参りました」
「勇者様……っ」
王女が空いている手で口元をおおう。その声は震えていた。
「勇者が姫をお助けしたならば、共にいずこへともなく去るのが慣例だと聞いております」
王女の目から大粒の涙がこぼれ落ちる。
勇者はゆっくり立ち上がると、王女の手を引いて歩き出した。
玉座の陰から音もなく暗黒将が現れ、二人の背中に深く頭を下げた。
――この翌日。
額にオーブのついた冠、肩にもオーブのついた豪華な肩当て、漆黒の長いローブを身にまとった魔王が、突如として『出発の城』のはるか上空に現れた。
魔王は片手に『古からの勇者の剣』を持ち、勇者を打ち倒したと宣言すると、黒い影に呑まれるようにして消えた。
魔王城へと戻ったその魔王は、後に玉座で何人もの勇者のパーティーを迎え討つこととなった。
白い薄布の向こうにいるその魔王は、砂塵将と豪雪将という二人の側近に守られ、ついに討ち取られることはなかった。
人のなかに、その魔王の姿を見た者はなかったという――。
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