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勇者は戸惑っていた。
突然、野宿していた森の中から、黒い影に呑まれ、見知らぬ場所へと連れてこられたのだ。
前を見れば、赤い絨毯の敷かれた石造りの細長い廊下が伸びている。
左右を見れば、壁の上部には髑髏が等間隔に並び、その中には蝋燭でも入っているのか、揺らめく光がもれている。
「ここは……?」
勇者はつぶやくが、返事はない。
彼は仲間たちから引き離され、一人この場所へと運ばれてきたのだ。
勇者はため息をつくと、重い足取りで進み始めた。先代勇者の名を冠した白銀の鎧のたてる金属音だけが、薄暗い廊下に響いた。
「無限回廊だったら……」
と言ってから、勇者は首をふる。
「勇者たる者、前進あるのみ……!」
勇者は一人、拳を振り上げた。
そんな勇者の目に、扉が見えてきた。魔王軍の紋章が大きく描かれた観音開きの扉は、瘴気を放っているようにも見える黒色をしていた。
勇者は沈黙したまま進み、扉を開け放った。
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