短編です

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 勇者は『はじまりの服』の装備を外し、『先代勇者の残せし鎧』を装備しなおした。シンプルな白銀の鎧に、全身を覆う長い白マントの、この世界の伝統的な勇者の装束だった。 「勇者であるこの俺も、このマントのせいで、町中でのイベント戦闘で白マントを、こうバッと!」  言うなり、勇者は両腕を広げるようにしてマントの前を開いた。そのまま両腕を使い、マントを背中に流す。 「やったら、パーティーの仲間から『なんだか変質者みたい』と言われたのだ!」 「あぁ……、なんとなくわかる……」  魔王が残念そうに言った。 「俺のパーティーは、俺以外は『出発の城』の城下町の武器屋の娘であるバトルマスター、『聖者の園』出身の尼戦士であるパラディン、『叡智の里』の魔女巫女である大賢者」 「魔王軍でも話題のハーレムパーティーであるな」  魔王はうなずいた。 「先代勇者が、『叡智の里』出身の踊り子賢者に言い寄られ、パーティーがとても破廉恥なことになっていたことから、このようなことになった!」  勇者は言うと、ギリ、と奥歯をかみしめた。 「破廉恥!? 余は……、余は……! 『出発の城』の武闘家門番と『聖者の園』出身の旅の修行僧より凄まじい嫉妬を受け、戦闘中に背後から蹴られたり、即死呪文をかけられていたのだぞ!」 「なに!?」  勇者が聞き返した。 「世間ではどう言われておるか知らぬが、仲間に命を狙われながら、それでもパーティーの空気を良くするのが勇者の務めと努力せざるをえぬ、とても過酷な旅であった……」  魔王もまた一歩、勇者の方へと片足を踏み出した。  まるで今にも呪文を唱えそうなポーズで怒鳴る。 「ハーレムパーティーで旅するそなたに、余の苦労はわからぬ!」  魔王の両手を、黒い炎が包み込む。 「だから先の勇者でありながら魔王に転職し、この世界を滅ぼそうというのか!」
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