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「そこでだ、俺はもう貴様の配下となることにした!」
「なぬっ!?」
魔王が声高く聞き返した。
「魔王軍は大きな組織だ。四人しかいないパーティーで、話に入れないまま辛い旅をするような苦しみはないだろう」
「よく言ってくれた! 勇者よ、そなたにこの魔王の座をくれてやろう!」
魔王は額のオーブつきの冠や、オーブのついた豪華な肩当てつきのローブを外すと、勇者の前に放り投げた。
「魔王の座を!? 良いのか!?」
「余はもうどこかの山奥でひっそり一人で暮らす……」
「それはどういうことだ、魔王!」
あまりにも弱々しい魔王の声に、勇者が驚く。
「余も四人のみのパーティーよりも、魔物とはいえ数の多い魔王軍を指揮する方が楽だろうと考えた。ゆえに、先代勇者でありながら、魔王の座を求めた」
勇者が息をのむ。
魔王は自らをあざ笑うかのような表情を浮かべた。
「魔王の座とは、かつての余や、そなたの考えているような、座って勇者がやって来るのをただ待っているだけで良い、楽なものではなかった……」
魔王は目を細め、かつての苦労を思い出す。
魔王の座に就いて初めての仕事は、勇者の進路を考えつつ、世界の六つの国と地域に六魔将を派遣することだった。
暗黒将、海難将、金銭将、破壊将、砂塵将、豪雪将の順番で、旅する勇者と相対するよう配置する運びとなった。
暗黒将は有能だったため、担当する地域に暗雲を垂れこめさせ、配下の邪気と剛腕に支配を任せた。邪気と剛腕は、暗黒将ほど頭が良くなかったが、暗黒将が有能だったので魔王がしてやらねばならないことはなかった。
海難将は適当に海を泳いであちらこちらで船を沈没させていたら、勇者の船が通りかかって「これ好都合よ!」ぐらいの台詞で戦闘を開始し、即、返り討ちにあって自身が海の藻屑と消えた。
ここまではまだ良かったのだ。
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