短編です

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「そなたは金銭将もすでに討ち倒していたな?」  魔王が問うと、勇者は不思議そうな顔をした。 「勇者よ……。金銭将は、相対した時の台詞から、余が台本を作ってやらねばならなかった。それも覚えきれぬと言うので『ガババッ、この俺が相手だ!』と言うのみとなった」 「……なに!? なんの話だ!?」  勇者が戸惑いの声をあげる。 「これを知った破壊将が、『金銭将が魔王様から登場時のお言葉をいただいたと聞いた』などと言ってきた。破壊将は自分で臨機応変にふるまうぐらいのかしこさがあるのにだ!」 「破壊将はけっこう長い台詞を言っていたような……?」  ――我こそは、この世を滅ぼし尽くすために魔王より命を受けし、六魔将が一人、破壊将である! 勇者よ、この俺が相手だ! 「余は、あれを考えてやらねばならなかった……。しかも、金銭将が横にくっついて来ていたので、公平な扱いに聞こえる程度のものでなければならなかった」 「……」  勇者は絶句している。 「砂塵将は、暴れる以外できなかった。海難将と同じように、いきなり勇者と相対してやられては困る。暗黒将に指示し、邪気に補佐させた。邪気を通じて暗黒将が砂塵将の部下の配置までしてくれた」 「できる部下がいたなら良かっただろう」 「余もそう思った! だから豪雪将の補佐もさせて剛腕を送ってもらい、さらに、そなたを足止めさせるために、幼馴染の許嫁を捕らえてきて脅す役もさせた。するとどうだ!?」  魔王は両手で頭をかきむしった。 「この勇者にはわかる。各地を旅し、人々の声を聞いてきたからな……。魔王の存在感がなくなり、暗黒将だけが人々の憎しみを集め始めたのだろう」  勇者は構えたままだった剣を腰に戻した。
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