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僕は海外出張の同行に別の人間を選ぶ事にした。
「なんで私なんでしょうか?」
君が唯一、僕の結婚指輪争奪に参加していないからだよ。
……とは言わない。
「君は沢山資格を持っているし、若いながらも優秀だから。特に英語が得意だと聞いている。この先英語での取引も増えるから、助かるんだ」
「……資格を持っているといっても、話す方はあまり経験もないのでお役に立てるかどうか……」
自信なさげ、というよりは不満を露わにした表情で僕を見上げる。
彼女はシステム部の佐倉 沙和。
23歳だけど秘書検定、英検を始め様々な資格を持っている。
見た目は小さくて、化粧っ気もないがなんとなく……今にも食って掛かりそうな強さを目に秘めている気がする。
彼女を見ていると思い出すのが……小さい頃飼っていたチワワ。
うん、サワというより……チワワだ。
「……社長?」
「いや、うん……とにかくよろしくね。詳細は上田くんからまた伝えるから」
「……はい」
秘書の上田くんは自分が同行出来ない事に不満そうだったが、英語が出来ないので諦めたようだ。
それに他の女子社員達も、同行者が佐倉くんだと分かると異議を唱える者はいなかった。
それ程佐倉くんは僕に興味を示さず……そして脅威でもないと認められていたんだろう。
その一方で、僕は意外と海外出張を楽しみにし始めている自分に気付いた。
それは失恋の痛手や殺伐とした指輪争奪から暫く解放される事への期待からか。
……それとも、気が強そうな佐倉沙和への興味からか。
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