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 何をもって好きだと言うのか全くわからないが、好きであるということは子供の頃から言われ続けた言葉だった。  そして賢一も、子供の頃から言い続ける言葉を、父へ投げかける。 「ふーん、俺も親父のこと好きだし」  父に偽りなく愛されていることがはっきりわかる。  自分も確実に父を愛している。  一般的には当たり前の感情だが、賢一の中では最も異質で、揺らぐことのない感情だった。 「そのさぁ、俺のことだけ素直に好きだとか言うのは何なの? 他の人にもそうして欲しいんだけど」  バックミラーに父が微笑む目が見える。 「こっちが聞きたい。他のヤツには、ちょっとできねーな」  賢一は思い返す。  妃に好きであると、何故素直に言わなかったか。  自分は妃を愛していたつもりだった。  しかし妃からの愛情は、わずかにあったとしても全く感じていなかった。  仮に素直に好きだと言っても、自分が父に返したような言葉は返って来ないとわかり切っていた。  そんな人間を本当に愛していたのだろうか。  妃の言う通り、利害が一致して執着していただけだと思いたかった。  アパートの駐車場に到着する。  シートベルトを外した父が、賢一を振り向いた。 「でもね、賢一のそういうワケのわからないところ、可愛いと思うよ」 「可愛いってなんだよ、おかしくね?」  悪態を吐いて、車を降りる。     
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