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 賢一は物心ついた時には父親と二人、古びた小さいアパートに住んでいた。  保育施設では非常に問題のある子供だった。  だが父親は賢一に対して、問題行動を否定はしたが、賢一自身を全く責めなかった。  地頭が良かったため、次第に父親以外から否定されない生き方を身に付けた。  そして父親が身を削って自尊心を育てた結果、小学校に上がる頃には問題行動を起こさないようになっていた。  中学に上がり父親があまり賢一に手をかけなくなると、賢一はストレスを抱えるようになった。  破壊衝動を抑えることや、他人に問題なく干渉することが苦痛になった。    反抗期なのだと自覚しながら、自尊心で衝動を最小限に抑えて過ごしていた時期。  温厚な父親だったが、ネット上に個人情報を載せることだけはないようにと、賢一が幼い頃から厳しく指導していた。  その意識が薄れた頃に、母親と名乗る者から連絡が届いた。  父親が絶対に帰らない時間に、母親が家に会いに来た。  賢一を育てることに限界を感じて家を出たが、ずっと気にしていたと言った。  賢一は、母親が自分に会えたことを泣いて喜んだので、恨んだりはしなかった。  だが、自分の生まれ持った性質が原因で愛する父親が一人になったと知り、衝撃を受けた。  同時に、今現在自分を苦しめている反社会的な感情が、反抗期などではなく生まれ持ったものなのだと納得した。  高校に入学した時期は、知恵と自尊心で培ってきた自分が、本来の自分とかけ離れていることに苦痛を感じた。  本来の自分を誰も知らないことに苛立ちながら、知られることを酷く恐れた。  一年間苦痛を耐え忍んだ高校二年の春、妃登一(きさきとういち)に出会った。  
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