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カシッ、と無機質な音が聞こえたので、私は隣のタケちゃんを見た。いつもしている厚い丸眼鏡のレンズ越しに、カメラのレンズを一心に覗き込んでいる。 「え、な、何してるの」 動揺して聞くと、タケちゃんはこちらに顔を向ける。寒そうに鼻や頬を真っ赤に染め上げながら、白い息を吐いた。 「記念」 「─え?」 タケちゃんは再びカメラのレンズに視線を戻す。 そのあまりに不謹慎な行動に私は、咄嗟に彼女の構えるカメラのレンズを片手で塞いでしまった。 私とタケちゃんの白い息が混ざり合う。 「ふざけないで。ここに死体隠そうって言ったの、タケちゃんだよね」 タケちゃんはただ、私の掌をレンズ越しに眺めている。白い肌が、雪に透けていってしまいそうだった。 ふと、背中に悪寒が差し込んだ。今自分の後ろにあるもの(・・)を、そっと振り返る。 横たわり折り重なる、ふたつの体。無地の雪景色にはとても似つかわしくない惨憺な状況に、思わず目を逸らす。 ややあって、彼女はゆっくり目を閉じると、カメラを降ろして私を見据えた。 「そのうち雪が隠してくれるから大丈夫だよ。だからこれは、埋もれちゃう前の、記念写真」 白く、枝のように細い指で、無骨なカメラを愛しそうに撫でながら微笑む。 体は凍える程冷えきっているのに、手はぐっしょりと濡れていた。そのせいかタケちゃんは、カメラのレンズを自分の顔へ向けると、超極細繊維の布を取り出して優しい手付きで拭き始めた。 「記念、ってなに。死体の写真なんか撮って、どうするの。タケちゃんおかしいよ、だからいじめられるんだよ!」 言い終えてから、はっとした。 まずいと思って口を押さえたが、言葉として放たれたそれは既にタケちゃんに届き、彼女から微笑みを取り去っていた。 「あ、タケちゃん、ごめ─」 「ゆりか」 降り積もる雪の音にも掻き消されるようなか細い声で、私の名前を呼ぶ。 「私に手を差し出してくれたのは、ゆりかだけだよ。本当に嬉しかった。それに、私をいじめから救い出してくれたのも、ゆりかだけ。本当に嬉しい。これで私、もう二度と、あいつらにいじめなんてされないんだね」 薄い唇の畔を上げ、いつもの柔らかい笑みが彼女の顔を彩る。 「殺してくれてありがとう」 カシッ─ 私に向けられたカメラがシャッターを切る。 私と、その後ろのもの(・・)を写した写真を見て、タケちゃんは嬉しそうに笑った。
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