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―― 匡煌の車へ乗ってから
『どこに行きたい?』と、聞かれ
和巴は『海が見たい』と、答えた。
何故、そう言ったのかは分からなかったが、
きっと ―― 初めて彼の車に乗せられた時に
一緒に見たのが海だったからなんだろう。
埠頭について外に出ると、
匡煌は気持ちを落ち着かせるようタバコを
吸い始めた。
車内に戻った彼が
『全て自分が悪い。俺の責任だ』と、
言う言葉を聞いた時、
こんな言葉を大好きな人に言わせてしまった
自分に嫌気が差した。
……誰も悪くなんかない。
人それぞれ持って生まれた宿命は変えられないけど、
運命は努力次第で変える事も可能だと思う。
その努力を”するか? しないか?”するなら
”どうするか?”で、その後の人生も大きく
変わるもんだと思う。
匡煌は初めて自分を抱いたあと、
『傍にいてくれるだけでいい』
って、言ってくれた。
いつの間にか私はそんな嬉しい言葉を
すっかり忘れてしまって、
『自分さえ後に引けば全ては丸く収まる』
と思い込もうとした。
匡煌が向けてくれた無限の愛を、
自ら手放そうとしてたんだ。
「―― いい機会だから、お互い腹を割って話そう。
俺と会わなかった間、和巴は何を考えてた?」
「……」
「……も、俺と一緒は嫌か?」
和巴は音が鳴りそうなくらい、
ブンブンと首を横に振った。
「ま ―― 匡煌さんの方こそ、こんな女々しいの、
いい加減、愛想が尽きたでしょ」
「め、女々しいって、お前は女だろうが……ま、
そんじょそこらの並みの女よりずっと芯は強いし・
気も強い、泣き虫だけどな」
「泣き虫だけ余計よ……」
和巴の目は、いつもの純情で負けず嫌いで
真っ直ぐな目でなく、
自信のない弱々しい潤んだ目をしている。
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