重なる偶然

3/8
前へ
/168ページ
次へ
 俺は書類を机の上に散積したまま椅子に座り、  後方の窓外へ目を泳がせていた。  静流が入って来て、ため息をつく。  (この度、彼女も俺と同じ監督委員に着任し。   おまけに俺のお目付け役となった。   ハッキリ言って超ウザい!)    「なぁにクサってんの?   今朝からずっとその調子よ。  昼はちゃんと食べた?」  お袋みたいに小煩い静流にうんざりしつつ、  くわえタバコに火を点ける。 「どーでもいいけど、  今夜の約束はすっぽかさないでよ?  あぁ、Wデートなんて久しぶり!」 「面倒くさい。行きたくねぇー」 「いい加減ハラを据えなさい。結婚するんだから」 「自分で決めた訳じゃない」 「こんな風に部屋へ篭ってばかりじゃ  気分も鬱になるってもんだわ。ちょうどいいから、  白鳳堂に私が予約した本取りに行って来てよ」 「かったりぃー」 「外の新鮮な空気を吸えば、  そのぼっさぁぁっとした頭も少しはしゃっきり  するでしょ。ホラっ」  追い立てられながらエレベーターに乗った。  外に出ると ――   ま、確かに3月の風は爽やかで、  頭と胸の中の澱みも少しは薄れてくれそうだ。  俺はゆっくり祇園方面へと歩き出した。
/168ページ

最初のコメントを投稿しよう!

108人が本棚に入れています
本棚に追加